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代表者挨拶



2013年 年頭所感 「新しい公共」の担い手としての地域建設業者をめざす

株式会社山田組
代表取締役

山田厚志

1. 潮目は変わった

 今年元旦に届いた賀状の幾枚かには、「政権が変わって公共事業にフォローの風が吹く」との「朗報」が記してありました。確かに私たちの業界には、この動きを歓迎する空気が漂っています。
 しかし、発注者が次世代に借金のツケ回しをするだけの意味不明な事業を乱発し、それを建設業界がただ歓迎して受注を繰り返していけば、早晩、国民からブーイングを浴びて、こうした「厚遇」は姿を消すでしょう。「潮目」は変わったのですが、地域に根ざす建設業者はこの国をあるべき未来へと導くその流れを読み、かつ行動する能動性を今こそ発揮しなければならないと私は考えています。

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2. 公は官ではない

 では変わった「潮目」とは、いったいどんなものでしょうか。そもそもそれを変えた大きな力は、やはり一昨年3月の大震災が人々に与えた精神的変化でした。
 あの震災後に東北の人々が見せた秩序ある行動には、外国の人ばかりでなく都市に暮らす私たちもが感動しました。街という〈ハード〉な枠組みが巨大な自然の力で押し流されてしまったことで、その中に確かに息づいてきた東北の人々の強い絆という〈ハート〉が図らずも鮮明になりました。今まで「公共」と呼ばれてきた強固なものが破壊されて、目には見えない「地域のつながり」は壊れず残りました。
 また逆に「フクシマ」に代表される東北の悲劇とは、その「地域のつながり」から理不尽に引き離された人々の姿であり、その傷の深さに私たちの心は強く共振したのです。そう、私たちは今、「公共」とは与えられるものではなく、不断の地域の営みが築く柔らかく強靭でかけがえのないものなのだと、改めて気がつきました。
 京都造形芸術大学の山崎亮さんはその著書の中で「私」と「共」と「公」について、こう記しています。『いうまでもなく、「パブリック」は「官」ではない。「公」である。「公」は、たくさんのプライベート(私)から成り立っている。「公」という字の下にある「ム」はプライベートを示す。その「ム(プライベート)」を「ハ(開く)」というのが「公」の意味だ。』さらに続けて、『「公」も「共」も「私」が基本となる概念であり、「官」や「行政」という意味ではない。だから、本来的には「公共事業」というのは「行政事業」ではないはずなのである。公共的な事業については、行政が担ってもいいし、市民が担ってもいいし、企業が担ってもいい。』と主張しています。(山崎亮著「コミュニティデザインの時代」中央公論新社)
 こうした指摘を、従来「まちづくりのプロ」を自認してきた建設に関わる全ての者はひとつの警句として受け止める必要があるはずです。「公共事業」の意味もかたちも、少しずつ確実に変わっていくことに敏感になることこそ、プロとして求められる姿勢だと私は考えています。

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3. 防災・減災五段階活用のススメ

 「公は官ではない」ことは、例えば「防災・減災」の分野で考えれば自明です。
 従来まで災害への備えを語る時に使われてきた「自助」「共助」「公助」なる言葉。ここでは「公助」を担うのは「官」でした。 しかし、災害時に市民が救助を依頼する救急車は、人口220万人の名古屋市でわずか50台足らず。これはあくまで一例ですが、官の実力とは突き詰めるとこんなものです。
 いえ、私は官の批判をするつもりは毛頭ありません。官の実力を冷静に見極めて家族や地域の備えをするのが市民の取るべき行動です。自分たちがすべき備えをしつつ、官には官にしかできない備えを求めていくことが本当の協働の姿勢だと思います。その時に官が補え切れない「公助」は一体誰が担うのかといえば、当然ながらそれは私たち市民一人一人が築き上げている「地域」ということになります。
 つまり、私たちは自らの命を守る備え(自助)をした上で地域に積極的に乗り出して「共助」を担う人となり、さらには「共助」同士を繋いでより広域で防災・減災の役割を担う「公助」を構築していく・・・そんなあるべき姿が見え始めたのです。こうなると、もはや「公は官ではない」ことは誰の目にも明らかです。
 私は今、『防災・減災五段階活用』という言葉を意識的に使っています。誰もがまずは自らの命を守る意識と具体的な手立てをすることを「自助」といい、自分の家族と隣三軒両隣の人たちを救う姿勢を「近助」と呼び、地域の絆を深めて共に守り合う取り組みを「共助」さらには「公助」と認識して、最後に官が官として備えるべき体制や設備を「官助」と名付けたのです。以上の五段階を縦に並べてみると

2013年写真1

 このようになります。人々が「自助」から一歩踏み出して取り組む「近助」から「公助」までの防災・減災活動とは、まさに「私」が同じ目的に向かって「公」なるものを築き上げる、古くて新しい「公共事業」だと言えるのです。

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4. 地域建設業者が果たす、新たな役割

 こうして書きながら思い出すのは、前の政権の誕生とともに台頭した「新しい公共」という概念です。
 『「新しい公共」とは、人を支えるという役割を、『官』と呼ばれる人たちだけが担うのではなく、・・・(中略)・・・地域で関わっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、社会全体で応援しようという新しい価値観です。・・・』と、時の鳩山首相は平成21年秋の所信演説の中で述べました。この時点では、なにやら官僚主導から政治主導へと舵を切るメッセージのような響きがありましたが、その2年後の東日本大震災を経験した今、人々は「共に公の一員である」という意識に目覚め、文字通り「新しい公共」の時代への流れが始まったというわけです。
 地域に根ざす当社では、昨年で8年連続となる「地域防災大会」を企画・運営してきました。発災後に職能を生かしていち早く復旧活動に取り組む建設業者の従前の役割に加えて、「災害が起こる前にも役立つ存在となって、地域と発注者の信頼を勝ち得よう」というのが、取り組みの主な動機でした。詳しい活動の中身は当社のホームページに公開中の記録をご覧いただくとして、確かに官主導ではない「新しい公共」の一つのかたちがこの地域に現れはじめた実感が、私にはあります。
 官に頼り切らない防災・減災の取り組みを通じて地域は人々の絆を深め、私の会社は地域貢献の評価を得つつ自分たちの実力のほどを自己確認して万一に備える、まさにWIN・WINの関係がここに生まれたのです。

2013年写真1
第8回大会チラシ]←クリックするとpdfファイルが開きます。 地域防災大会の様子

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5. 「建業農家・畑ちがい屋」、「なごや環境大学共育講座開講」の取り組み

 また一方、既存の「公共工事」を発注する官に対しても、単なる「官民」の関係に安住せず「官の施策の実現をサポートするパートナー」としての役割が、これからの建設業者には求められ、それが新たな企業評価につながると私は考えています。
 その考えに沿って展開する取り組み例として、ここでは「建業農家・畑ちがい屋」と「なごや環境大学共育講座」の活動をご紹介しましょう。

2013年写真2
ブルーベリー園と東谷山。 「建業農家・畑ちがい屋」参加イベントの様子

 「名古屋市内で農業に着手する」というテーマを掲げてこの数年にわたって取り組んできた当社は、昨年秋に名古屋市内で初となる民間企業による大規模農地の賃貸契約(利用権設定)を実現することができました。市内守山区内の東谷山の丘陵地に広がる農園を「天空のアグリパーク」と名付け、ブルーベリーの栽培を中心に本格的な農業分野参入を果たしたのです。
 「建設業者からの異分野参入だが、本業の精神とスキルを生かして本気で地道に取り組む」というメッセージを込めて、私は「建業農家・畑ちがい屋」なるブランド名を考案しました。これからこの農園では、市民とのさまざまな交流活動も始まっていくことになります。

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共育講座の様子

 「畑ちがい屋」の活動が名古屋市の掲げる「都市内農地の保全と活性化」という施策実現の一助となることをめざしたものだとすれば、「なごや環境大学共育講座」の活動は「まちじゅうをキャンパスとして環境学習を展開する」という同市の施策に呼応して、9年前から続ける市民向け企業講座です。受講した市民は、すでにのべ千名を超えています。その中の多くの皆さんはリピーターとして当社の心強い応援団になってくれていますし、さらに一部の受講者は今では講座の一部を企画するまでに関係を深めています。ここでもまた、「新しい公共」が熱く着々と形づくられつつあるのです。

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6. 官が発注者として成すべきこと

 さて、それでは従来まで公共事業を一手に担ってきた官は今、なにを成すべきなのでしょうか。その問いの答えを私は「もう一度、責任と自信を取り戻して、官にしか実行できない事業をこそ粛々と執行していく」ことだと考えます。その事業とは、建設分野に関して言えば大きく以下の3つ。
 一つには、計画的・継続的な維持管理事業。中央高速道路のトンネル崩落事故はその必要性を強く印象付けました。過去の施設はもちろん、今後生み出される公共財を継続的に維持管理できるのは官のみであることを自覚するとともに、「ダンピング受注による安普請は結局、高くつく」ことも、この際、肝に銘ずるべきです。
トンネル崩落の記事
中日新聞・平成24年12月14日付朝刊

 二つ目は、国土を強靭にする防災・減災対策の実施。昨年、国連国際防災戦略が発表した我が国の過去20年間の自然災害による経済損失額は約32兆円と、アメリカに次いで世界第二位です。
災害費用の記事
中日新聞・平成24年16月22日付夕刊

 名古屋大学連携研究センター長の福和伸夫教授の弁を借りれば、「災害に備えた投資は、発災後の復旧・復興費のおよそ1/10」とのこと。コスト縮減の流れからも、さらには「新しい公共」による共助・公助体制を醸成する戦略的観点からも予防的な公共事業をきめ細かく計画・発注すべきです。
 三つ目は上記の自然災害との関連も指摘される特に都市部での環境対策事業の促進。これもまた市民や企業との協働による効率的な展開を誘導する先導的な事業の発注や制度設計といったリーダーシップが官には期待されます。

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7. 過渡期の今を生き抜く覚悟

 以上、長々記しましたが、私が変わったと感ずる「潮目」も未だその流れは緩く細いものです。政権交代の高揚感から、今しばらくは従来型の公共事業が多くを占めるでしょう。もちろん当社も生き残りを賭けてその受注競争の中に積極的に加わっていきます。
 しかし当社のその受注姿勢は、自社の繁栄をのみ願ってのものではありません。今までもそうしてきたように、それら工事で得るなけなしの利益の何割かを注ぎ込んで、来るべき「新しい公共」の時代にふさわしい建設業者としての力量を高めていくつもりです。
 「全国一の地域貢献活動を展開する建設会社になる」―。そう目標を掲げて活発に活動する当社が求めるものは、市民や地域の「ありがとう、頼りにしている」という「期待」の声です。工事現場で傷つくことが多い社員たちのプライドは、さまざまな貢献活動の場で癒され、そして自信を回復します。その自信が次の現場での力量発揮へとつながっていきます。その意味で貢献活動とは、自分たちのためのものでもあるのです。

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8. 今年も頑張ります

 市民の期待に応えられる地域建設業者とは、本来、官が求めている真のパートナーのはずです。官は実行力あるパートナーを得てはじめて、市民や地域との協働によるこれからの「公共事業」の舞台に自信をもって立つことができるのです。
 当社は市民や地域だけではなく、官からも信頼され頼りにされる存在になりたいと強く願っています。それがまたピシネスチャンスにつながるなら、こんな幸せなことはありません。
 山田組は今年も1年間、社員全員で頑張ります。当社のその取り組みを、今まで同様にどうぞ温かく見守って下さいますよう、心からお願いいたします。

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